
コラム
『知らない間に借金?相続の仕組みを解説』
「相続」という言葉聞いて、皆さんはどのようなイメージをされるでしょうか。実家を継ぐ、兄弟姉妹で預貯金を分配するといったプラスの財産を引き継ぐ場面を想像しやすいのではないでしょうか。
しかし、相続の対象はプラスの財産だけではありません。借金等のマイナスの財産を引き継ぐこともあるのです。そのため、安易な相続には注意が必要です。
また、プラスの財産がない場合、「何も貰えそうにないから、何もしなくていいや」と考えがちかもしれません。もっとも、何もしないで放っておくと危険なことがあります。なぜなら、何もしていないでいると相続したとみなされることがあるため、知らない間に借金を引き継いでしまう可能性があるからです。
では、どのような場合に相続が発生するのか、相続したくない場合はどのようにしたらよいのでしょうか。
1.相続の仕組み
相続は死亡によって開始します(民法882条)。そして、相続人は、原則として、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(民法896条)。つまり、被相続人が死亡すると、相続人はプラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐことになります。
では、被相続人が死亡によって相続が始まった時、相続人はどのような対応ができるのでしょうか。
法律上、相続人ができる対応は3つ定められています。
1つ目は単純承認です。単純承認とは、相続を受け入れ、プラスの財産もマイナスの財産も全てを引き継ぐというものです。
2つ目は限定承認です。限定承認とは、引き継いだプラスの財産の限度でマイナスの財産も引き継ぐというものです。
3つ目は相続の放棄です。相続の放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も全て引き継がないというものです。
2.何もしなかったらどうなるの?
相続が始まった時の対応方法が3種類あることはご説明しました。そして、法律では、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」にいずれの対応をとるか決めないといけないとされています(民法915条1項)。
では、3か月何もしなかった場合はどうなるのでしょうか。
この場合は、相続人が単純承認をしたとみなされることになります(民法921条2号)。つまり、何もしなかったら、プラスの財産もマイナスの財産も全て引き継ぐことになってしまう、ということです。
そのため、マイナスの財産が多い、家族と仲が悪く一切関わりたくないといった理由で相続をしたくない場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続が必要になります(民法938条)。
3.3か月が過ぎてしまった後に相続放棄をする方法
相続が始まってから3か月経ってしまった。しかし、被相続人には借金があるから相続はしたくない。このような場合、相続の放棄は一切できないのでしょうか。
結論としては、相続放棄できる場合があります。
上述のとおり、原則として、相続の放棄は3か月以内にしなければなりません。
しかし、3か月以上経過していたとしても、判例によって相続放棄ができる場合が認められています。判例では、「被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、…諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、…熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべきときから起算すべき」とされています。つまり、財産がないと信じており、調査もできなかったといった事情がある場合には、後からでも相続の放棄ができる可能性があるということです。
4.弁護士にご相談を
以上のとおり、今回は相続の仕組みと対応方法についてご説明しました。
しかし、相続開始から3か月以上経過した場合に相続放棄ができるかの判断は難しい場合があります。また、期間内に相続放棄をしたとしても、財産を隠したりしてしまった場合には単純承認をしたとみなされるため、注意すべき点は数多く存在します。
そこで、相続の放棄にお悩みの場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
令和2年10月12日
弁護士法人東海総合
弁護士 若林 大介
その他のコラム
寄与分はいかにして認められるのか ~あんなにお世話してあげたのに!
1 相談事例 先日、祖父が亡くなりました。祖父は昔から体調が悪く、生前はわたしの母がずっと身の回りの面倒を見ていました。 それなのに、たまにふらっと顔を見せるだけだった叔父が、「俺が長男なんだから、遺産を分けるときには、もっと配慮してもらわないと困る」と言って、半分ずつ分けようという母の提案を受け入れてくれません。 聞いたところによると、寄与分というものも請求できるらしいとのことですが、わたしたちは今後どうすればよいので...
『特別寄与料とは?新設された特別の寄与を解説』
昨年施行された改正相続法により、「特別の寄与」の制度が新設されました(民法第1050条)。この改正によって、相続人以外の親族であっても、無償で被相続人の介護等の労務の提供をしていた場合には、特別寄与料として金銭の支払いを請求できることになりました。 では、具体的にこれまでの相続法とは何が変わったのでしょうか、どのような場合に特別寄与料の請求ができるのでしょうか。 1.これまで...
『知らない間に借金?相続の仕組みを解説』
「相続」という言葉聞いて、皆さんはどのようなイメージをされるでしょうか。実家を継ぐ、兄弟姉妹で預貯金を分配するといったプラスの財産を引き継ぐ場面を想像しやすいのではないでしょうか。 しかし、相続の対象はプラスの財産だけではありません。借金等のマイナスの財産を引き継ぐこともあるのです。そのため、安易な相続には注意が必要です。 また、プラスの財産がない場合、「何も貰えそうにないから、何もしなくていいや」と考えがちかもし...
自分でもできる相続調査
一般的に誰かが亡くなると、葬儀の手配や遺品の整理のほかに「誰が相続財産を受け継ぐのか」「相続財産はどれくらいあるのか」といった調査が必要になり、これを「相続人調査」、「相続財産調査」と呼びます。 近年は相続についてのマニュアル本も複数出版されており、「戸籍の取寄せは自分でしてきたので、これからどうすればよいのか教えて欲しい」と相談にいらっしゃる方もいます。 そこで、本稿では、相続人調査・相続財産...
『相続法の改正によって図られた配偶者保護とは?③~配偶者居住権』
本稿では,2018年7月1日より施行の改正相続法において新設されました「配偶者居住権」について詳しく解説をしていきます。 1 相談事例 相談者は高齢の女性で,以下のような相談をしに法律事務所を訪れました。 「先日(2020年8月1日),長年連れ添った夫を亡くしました。遺言書は残さなかったようです。私には娘が1人だけいますが,今は遠く離れた地で家庭を築...