相続財産の評価の方法について
相続税の計算は、財産の種類によって計算方法が異なります。特に不動産(土地、建物など)は複数の計算方法があり、どの方法を選択するかで税額が変わります。できるだけ相続税額を小さくするためには、こういったルールについての知識が欠かせません。ここでは、さまざまな土地・建物の評価方法や財産評価に必要な資料などを紹介します。
土地の評価
土地の評価は相続財産評価の中でも最も難しいと言われています。その理由は「土地の形状や周辺環境によって評価が変わる」からです。ただし、基本的なルールを抑えればある程度の税額計算は可能です。
まず、土地を評価する方法としては、「路線価方式」と「倍率方式」という2つの方式があります。
路線価方式…「路線価×地積×補正率」で算出
路線価方式は、国税庁が毎年定めて公開している「路線価(http://www.rosenka.nta.go.jp/)」を基準として土地を評価する方法です。路線価地域に該当する土地であれば、路線価方式での計算が可能になっています。市街地や住宅地では、路線価方式を採用するのが一般的といえるでしょう。
路線価方式での計算方法の基本は「路線価×地積×補正率」です。1平米あたりの路線価に土地の面積をかけるわけですね。ただし、これだけでは土地の形状や周辺環境を考慮していないことになりますから、「補正」をかけます。この補正については、相続税法の中で細かいルールが存在しており、専門的な知識・ノウハウが必要になる部分です。
倍率方式…「固定資産税評価額×土地の現況に応じた倍率」で算出
もうひとつの方法は、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて算出する「倍率方式」です。
こちらも国税庁が公開している土地の現況ごとの倍率(評価倍率表http://www.rosenka.nta.go.jp/)を使用します。表を見ると分かる通り、地域と現況(土地の種類)によって、倍率が決まっています。
現況が宅地の場合…1000万×1.2=1200万円
ここまでが、土地の評価における基本的なルールです。では、もう少し細かく土地の評価方法を見ていきましょう。
がけ地を有する宅地
「がけ地」とは、「土地の一部が宅地、一部が”がけ”状態になっている土地」を指します。
がけ地に該当すると、通常の宅地よりも土地の評価額を減らすことができ、結果的に相続税の軽減につながります。ちなみに「がけ地」の定義ですが、一般的には「斜度30度以上の傾斜地を含む宅地」です。斜度が30度未満の場合は、がけ地として補正をかけずに「利用しにくい土地」と見なして10%程度の評価減が可能です。
がけ地の計算式
がけ地は「路線価×奥行価格補正率×がけ地補正率×面積」で評価します。
このときポイントになるのは「がけ地補正率」です。がけ地補正率は「がけ地の方角」と「土地に占める割合」によって、下記のように定められています。
- がけ地の割合10%以上…南0.96、東0.95、西0.94、北0.93
- がけ地の割合20%以上…南0.92、東0.91、西0.90、北0.88
- がけ地の割合30%以上…南0.88、東0.87、西0.86、北0.83
- がけ地の割合40%以上…南0.85、東0.84、西0.82、北0.78
- がけ地の割合50%以上…南0.82、東0.81、西0.78、北0.73
- がけ地の割合60%以上…南0.79、東0.77、西0.74、北0.68
- がけ地の割合70%以上…南0.76、東0.74、西0.70、北0.63
- がけ地の割合80%以上…南0.73、東0.70、西0.66、北0.58
- がけ地の割合90%以上…南0.70、東0.65、西0.60、北0.53
例えば、土地面積が100平米で、そのうちがけ地が31平米であり、東向きであれば、がけ地補正率は「0.87」です。がけ地があるだけで単純に0.87倍程度の評価が見込めるため、相続税の節約に繋がるわけですね。また、2方位以上のがけ地(土地の南と東が”がけ”状態にあるような土地)では、方位ごとに補正率を割り出して計算します。
定期借地権のある土地の評価
定期借地権とは、いわゆる「土地を借りる権利」のことです。期限の定めがあり、期間満了になれば持ち主(土地所有者)へと戻ります。ただし、定期借地権自体も相続財産とみなされるため、相応の計算が必要です。
定期借地権がある土地の計算式
定期借地権がある土地は「自用地評価額×定期借地権割合×逓減率」で評価額が決まります。
- ・定期借地権割合…設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額(権利金等の額)÷設定時におけるその宅地の通常の取引価額逓減率
- ・逓減率…課税時期における残存期間年数に応ずる基準年利率の複利年金現価率÷設定期間年数に応ずる基準年利率の複利年金現価率
この説明だけでは分かりにくいかもしれませんが、要は「借地権の経済的利益をそのときの土地の価格や残りの年数を加味して計算する」ということです。言い換えれば「土地を借りていることで、借り手がどれだけの利益を得ているか」を算出し、相続税の計算にしようすることが目的といえます。
広大地の評価(地積規模の大きな宅地の評価)
広大地(500平米以上の土地)を相続する時は、別途計算により相続税の軽減が可能です。
ただし、これは2018年1月までの範囲であり、2018年1月以降の相続では「地積規模の大きな宅地の評価」に移行しています。よって、ここでも新制度「地積規模の大きな宅地の評価」について紹介します。
地積規模の大きな宅地の評価が適用できる条件
- ・土地の面積が「3大都市圏で500平米以上」「それ以外の地域で1000平米以上」であること
- ・地区区分が「普通商業・併用住宅地区」もしくは「普通住宅地区」であること
- ・ただし、上記2つを満たしていても、「市街化調整区域で宅地開発ができない地域」「工業専用地域」「容積率が400%(東京23区は300%)以上の地域」は除外する
地積規模の大きな宅地の計算式
「路線価×各種補正率×規模格差補正率×面積」で評価します。旧制度(広大地の評価)では存在しなかった「規模格差補正率」「各種補正率(奥行補正や不整形地補正)」が考慮されています。また、規模格差補正率は、次のような計算式で求められます。
補正数値1と2については、地域(3都市圏とそれ以外)と地区の種類によって定められています。詳細は国税庁のホームページ(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4609.htm)で確認してみてください。
農地・生産緑地・山林の評価
農地・生産緑地・山林については、それぞれ以下のような評価を行います。
農地
- 純農地・中間農地=固定資産税評価額×国税局長が定める一定の倍率
- 市街地農地=(農地が宅地であるとした場合の価額-農地を宅地に転用する場合にかかる造成費)
- 市街地周辺農地=市街地農地×80/100
生産緑地
生産緑地でないとした価額×(1-控除割合)※控除割合は買取申し出までの期間に応じて10%~35%まで変動
生産緑地でないとした価額×95%
山林
- 純山林=固定資産評価額×国税局長が定める一定の倍率
- 中間山林(市街地の周辺や別荘地帯の山林)=固定資産評価額×国税局長が定める一定の倍率
- 市街地山林…宅地批准方式と倍率方式で変動
- 広大な市街地山林…広大地の評価に準ずる
- 保安林などの評価…山林の自用地としての評価額に、伐採制限に応ずる一定の金額を控除した金額により評価
雑種地の評価
雑種地とは、「宅地」「田畑」「山林」「原野」「牧場」「池沼」「鉱泉地」のいずれにも該当しない土地です。雑種地に評価は、原則として「路線価方式」や「倍率方式」で行われますが、細かなルールについては専門家への確認が必須といえます。ちなみに、雑種地に該当するか否かは、登記簿上の「地目」よりも現況が優先となるため、注意が必要です。
私道の評価
私道は、用途によって3つの種類に分かれ、それぞれ評価方法が異なります。
- 不特定多数が利用する私道(通り抜け私道など)…評価しない
- 特定の者が利用する私道(行き止まりなど)…私道評価として「通常の土地評価額の30%程度」とする
- 所有者専用私道…一般的な宅地として評価される
建物(家屋)の評価
建物は、主に「自家用家屋」「貸家」「建築中の家屋」によって評価方法が異なります。
自家用家屋…貸付や不動産所得を得る目的以外で所有している家屋
固定資産税評価額×1.0
貸家…貸し付けて不動産所得を得るための家屋
固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)
借家権割合は、立ち退き要求時に借主から家主に対して請求できる権利金を表しており、各国税局管内で割合が決められています。また、賃貸割合は、「賃貸物件のうち、実際に入居者がいる部屋の割合」と考えて良いでしょう。5世帯が入居できる物件のうち、実際には3世帯しか住んでいなければ、賃貸割合は3/5となります。
不動産の財産評価に必要な資料一覧
最後に、土地や建物など、不動産の財産評価に必要な資料をまとめて紹介します。
- ・登記簿謄本
- ・固定資産税評価証明書
- ・土地の実測図や地積図等土地の形状及び面積のわかる資料
- ・不動産の場所が分かる地図
- ・賃貸している場合は賃貸借契約書
これらはいずれの土地、建物であっても必ず必要になるものです。事前に収集・取り寄せておきましょう。
不動産の財産評価はプロに任せるべき
このように、不動産の評価は非常に難解であり、細かなルールがいくつも決められています。しがたって、適切にルールを適用しなければ、相続税を節約するどころか「過少申告」や「無申告」に繋がる可能性があるわけです。
原則として相続税の申告は、相続開始(被相続人が亡くなった日)から10か月以内と決められています。限られた時間のなかで、最大限の節税効果を得るためには、プロの手が欠かせないわけです。相続に強い弁護士などの専門家への相談を検討してみてください。