コラム
遺贈と相続放棄
先日、遺贈を受けたが放棄したいというご相談を受けました。そこで、頭の整理もかねて「遺贈と相続放棄との関係」について解説したいと思います。
1 相談内容(仮想事例)
この度、私の父が遺言書を残して亡くなりましたが、その中に「先祖代々の土地一筆を長男の息子(孫)に遺贈し、その余の財産は次男に包括して遺贈する」と書いてありました。
私は長男に当たりますが、生前、父との関係があまり良くなかったのですが、孫は可愛がっていたようで、どうしても私には遺産を渡したくなかったようです。しかし、私も息子も今は県外に住んでいますので、正直、遺贈の対象とされている土地をもらっても仕方ありませんし、息子もそのように言っています。
相続財産をもらわないようにするためには、相続放棄という手続きを取らなければならないとお聞きしたのですが、私の息子の場合はどのようにすればよいのでしょうか?
2 遺贈の種類
遺贈とは、遺言による贈与のことをいいます。民法964条が、遺贈の根拠条文となります。
(包括遺贈及び特定遺贈)
民法964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
遺贈には、大きく2つの種類があります。1つが「包括遺贈」、もう1つが「特定遺贈」です。
⑴ 包括遺贈について
包括遺贈とは、遺産の全部または一定の割合を与える形の遺贈をいいます。遺産の全部を与えるものを「全部包括遺贈」、一定の割合を与えるものを「割合的包括遺贈」といいます。
上記の相談事例では、「その余の財産は次男に包括して遺贈する」との部分が包括遺贈(割合的包括遺贈)に当たります。
包括遺贈を受ける者(=包括受遺者)は、相続人と同一の権利義務を有し(民法990条)、被相続人の一身専属権利義務を除いた相続財産に関する一切の権利義務を承継します(民法893条)。
包括受遺者≒相続人という立場になりますので、包括受遺者はプラスの財産(積極財産)のみならず、借金などのマイナスの財産(消極財産)をも承継しなければなりません。
⑵ 特定遺贈について
これに対し、特定遺贈とは、特定された相続財産や指定された相続財産を与える形の遺贈をいいます。
上記の相談事例では、「先祖代々の土地一筆を長男の息子(孫)に遺贈し」との部分が特定遺贈に当たります。
民法上、特定遺贈における受遺者は、包括受遺者と異なり、いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条、988条)。
3 特定遺贈・包括遺贈と相続放棄との関係性
⑴ 相続放棄について
また、相談者のいう「相続放棄」とは、被相続人の財産に対する相続権の一切を放棄することをいい、相続放棄者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、必要書類を提出して行います(民法938条)。これを相続放棄の申述といいます。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時、つまり遺贈があったことを知ってから3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条)。
⑵ 特定遺贈にいう「放棄」とは
ここで注意して頂きたいのが、ここにいう「相続放棄」と、特定遺贈にいう「遺贈の放棄」とは異なる、という点です。
特定遺贈における「放棄」は、相続人等の遺贈義務者に対する意思表示で足り、相続放棄のように家庭裁判所へ必要書類を提出するといった手続は不要となります。
特定遺贈における放棄の意思表示は、法律上、口頭でも有効とされていますが、後日の紛争を予防するためにも、内容証明郵便を使って意思表示をした証拠を残しておきましょう。
以上をまとめると、次の図表のようになります。
種類 | 放棄の方法 |
包括遺贈 | 遺贈があったことを知ったを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する |
特定遺贈 | 相続人等へ放棄の意思表示をする |
⑶ 相談内容に対する回答
つまり、上記事例において、相談者の息子は特定遺贈を受けていますので、家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要はなく、他の相続人である次男に放棄の意思表示をすればよい、との結論になります。
4 おわりに
以上、遺贈と相続放棄の関係について概観して参りました。
上記事例の遺言書では、一読して「遺贈」であることがわかりますが、中には「遺贈」に当たるのかどうか判別できないような場合もあり、場合によっては遺言書として効力を有さないことも多々ございます。
実際に遺言書が手元にある方、これから遺言書を作成されたい方は是非一度ご相談ください。
令和2年11月10日
弁護士法人東海総合
弁護士 小山 洋史
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