相続問題を解決する名古屋の弁護士法律事務所

弁護士法人 東海総合

土曜日・夜間も相談対応

 052-232-1385

受付時間 9:00~18:00(平日)

 お問い合わせ

遺贈と相続放棄

先日、遺贈を受けたが放棄したいというご相談を受けました。そこで、頭の整理もかねて「遺贈と相続放棄との関係」について解説したいと思います。

 

1 相談内容(仮想事例)

 

この度、私の父が遺言書を残して亡くなりましたが、その中に「先祖代々の土地一筆を長男の息子(孫)に遺贈し、その余の財産は次男に包括して遺贈する」と書いてありました。

 

私は長男に当たりますが、生前、父との関係があまり良くなかったのですが、孫は可愛がっていたようで、どうしても私には遺産を渡したくなかったようです。しかし、私も息子も今は県外に住んでいますので、正直、遺贈の対象とされている土地をもらっても仕方ありませんし、息子もそのように言っています。

 

相続財産をもらわないようにするためには、相続放棄という手続きを取らなければならないとお聞きしたのですが、私の息子の場合はどのようにすればよいのでしょうか?

 

2 遺贈の種類

 

遺贈とは、遺言による贈与のことをいいます。民法964条が、遺贈の根拠条文となります。

 

(包括遺贈及び特定遺贈)

民法964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

 

遺贈には、大きく2つの種類があります。1つが「包括遺贈」、もう1つが「特定遺贈」です。

 

 包括遺贈について

 

包括遺贈とは、遺産の全部または一定の割合を与える形の遺贈をいいます。遺産の全部を与えるものを「全部包括遺贈」、一定の割合を与えるものを「割合的包括遺贈」といいます。

 

上記の相談事例では、「その余の財産は次男に包括して遺贈する」との部分が包括遺贈(割合的包括遺贈)に当たります。

 

包括遺贈を受ける者(=包括受遺者)は、相続人と同一の権利義務を有し(民法990条)、被相続人の一身専属権利義務を除いた相続財産に関する一切の権利義務を承継します(民法893条)。

 

包括受遺者≒相続人という立場になりますので、包括受遺者はプラスの財産(積極財産)のみならず、借金などのマイナスの財産(消極財産)をも承継しなければなりません。

 

 特定遺贈について

 

これに対し、特定遺贈とは、特定された相続財産や指定された相続財産を与える形の遺贈をいいます。

 

上記の相談事例では、「先祖代々の土地一筆を長男の息子(孫)に遺贈し」との部分が特定遺贈に当たります。

 

民法上、特定遺贈における受遺者は、包括受遺者と異なり、いつでも遺贈の放棄をすることができます(民法986条、988条)。

 

3 特定遺贈・包括遺贈と相続放棄との関係性

 

 相続放棄について

 

また、相談者のいう「相続放棄」とは、被相続人の財産に対する相続権の一切を放棄することをいい、相続放棄者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

 

相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、必要書類を提出して行います(民法938条)。これを相続放棄の申述といいます。

 

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時、つまり遺贈があったことを知ってから3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条)。

 

 特定遺贈にいう「放棄」とは

 

ここで注意して頂きたいのが、ここにいう「相続放棄」と、特定遺贈にいう「遺贈の放棄」とは異なる、という点です。

 

特定遺贈における「放棄」は、相続人等の遺贈義務者に対する意思表示で足り、相続放棄のように家庭裁判所へ必要書類を提出するといった手続は不要となります。

 

特定遺贈における放棄の意思表示は、法律上、口頭でも有効とされていますが、後日の紛争を予防するためにも、内容証明郵便を使って意思表示をした証拠を残しておきましょう。

 

以上をまとめると、次の図表のようになります。

 

種類 放棄の方法
包括遺贈 遺贈があったことを知ったを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する
特定遺贈 相続人等へ放棄の意思表示をする

 

 相談内容に対する回答

 

つまり、上記事例において、相談者の息子は特定遺贈を受けていますので、家庭裁判所に相続放棄の申述をする必要はなく、他の相続人である次男に放棄の意思表示をすればよい、との結論になります。

 

4 おわりに

 

以上、遺贈と相続放棄の関係について概観して参りました。

 

上記事例の遺言書では、一読して「遺贈」であることがわかりますが、中には「遺贈」に当たるのかどうか判別できないような場合もあり、場合によっては遺言書として効力を有さないことも多々ございます。

 

実際に遺言書が手元にある方、これから遺言書を作成されたい方は是非一度ご相談ください。

 

令和2年11月10日

 

弁護士法人東海総合

弁護士 小山 洋史

その他のコラム

『相続法の改正によって図られた配偶者保護とは?③~配偶者居住権』

本稿では,2018年7月1日より施行の改正相続法において新設されました「配偶者居住権」について詳しく解説をしていきます。   1 相談事例   相談者は高齢の女性で,以下のような相談をしに法律事務所を訪れました。   「先日(2020年8月1日),長年連れ添った夫を亡くしました。遺言書は残さなかったようです。私には娘が1人だけいますが,今は遠く離れた地で家庭を築...

相続放棄はどこまでやるべき?

先日、「相続放棄について、全員でしなければならいないと聞いたのですが、どのようにすればよいのでしょうか?」というご相談をいただきました。   そこで、本稿では、相続放棄の範囲について解説したいと思います。   1 相続放棄とは   相続放棄とは、被相続人の残した財産(遺産)の一切を相続しない手続きのことをいいます。   相続放棄をすると「初...

特別受益① ~ 兄弟は他人の始まり

遺産分割でよくある相談の一つに「特別受益」があります。   例えば、「妹は大学に行かせてもらったのに、自分は高卒で家業を継がなければならなかった。妹の学費分は遺産から引けませんか?」といったような相談が数多く寄せられ、しかも「きょうだいの縁を切って、今日は相談に来ました。」という方も少なくありません。   そこで、本稿では、特別受益の概要と、どのような場合に特別受益が考慮されるのか、...

特別受益② ~ 遺留分との複雑な関係について

前稿では、「特別受益」について具体的な例を挙げながら基礎的な部分を解説いたしました。   そこで今回は、発展的な部分として、「特別受益」と遺留分との関係について解説したいと思います。   1 特別受益の持戻し 前回のおさらいになりますが、「特別受益」とは、「“相続人の一部”が、被相続人から受け取った“特別な受益”」をいいます。   ここにいう“特別な受益”...

第5章 将来生じる相続についての検討ーその2

3 遺言書の内容と生前贈与の方法に関する若干例 ① 法律上の子でない子に相続させる方法 ⅰ) 認知する方法    A 法律的な親子関係を成立させて相続権を与える方法があります。そのために認知することが必要です。 親から認知する方法は、  ・ 生前認知(届出による認知の方法です。)  ・ 遺言認知(遺言による認知の方法です。) があります。(なお、これ以外に子供から認知を請求する方法もあります。)  注意する点は...

遺産分割・生前対策法律相談お問合わせ

まずはお気軽に、お電話またはフォームよりお問い合わせください。