
コラム
『相続法の改正によって図られた配偶者保護とは?②~配偶者短期居住権』
本稿では,2018年7月1日より施行の改正相続法において新設されました「配偶者短期居住権」について詳しく解説をしていきます。
1 配偶者短期居住権とは?
配偶者短期居住権(民法1037条)とは,被相続人(=亡くなった方)の配偶者が,相続開始の時(=被相続人の死亡時)に,被相続人の建物に無償で居住していた場合に,無償での短期の居住権を認めるものです。
例えば,夫婦が同居する建物があり,その建物の名義が被相続人の単独所有名義になっていたとします。このとき,被相続人が存命中には,配偶者が被相続人の占有補助者として居住建物に居住できるものとされています。
しかし,被相続人が死亡すると,配偶者は占有補助者としての地位を失うことになりますので,法文上,配偶者がどのような権原をもって建物に住み続けているかは明確ではありませんでした。
2 判例の見解と改正の趣旨
これに答えを出したのが,平成8年12月17日に出された最高裁判例でした。
判例によれば,「被相続人の共同相続人の1人が相続開始時に被相続人所有の建物に被相続人と居住していた場合には,特段の事情のない限り,被相続人とその相続人との間で,相続開始時を始期とし,遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される」との見解が示されました。
しかし,この判例法理によっても,第三者に居住建物が遺贈された場合や,被相続人が反対の意思を表示した場合など,被相続人の意思が推認できない場合には保護に欠けるとの指摘がなされていました。
このような指摘を受け,改正相続法では,被相続人の意思にかかわらず,遺産分割により居住建物の帰属が確定した日,または相続開始の時から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日までの間は,配偶者の居住権を保護するものとして,法定の短期居住権が認められました。
3 配偶者短期居住権の要件と効果
民法1037条1項によると,配偶者短期居住権は,
① 配偶者が,
② 被相続人の財産に属した建物に,
③ 相続開始時に無償で居住していた場合に,
④ 居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者に対して有する,無償で居住建物(一部にのみ無償で使用していた場合には,その部分に限る。)に一定の期間居住することができる権利(=債権)
とされています。
また,同条2項では,上記④にいう居住建物の取得者は「第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはならない」と規定されています。ただし,第三者対抗要件は認められていません。
上記④にいう「一定の期間」については,遺産分割をする場合とそれ以外とで期間が分けられています。
まず,遺産分割をする場合には,
㋐ 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または
㋑ 相続開始の時から6ヶ月を経過した日のいずれか遅い日まで
配偶者短期居住権が存続することになります。
次に,それ以外の場合については,例えば,配偶者が相続放棄をした場合,配偶者以外の者が遺贈,死因贈与により居住建物の所有権を取得した場合が挙げられます。
この場合,居住建物の取得者はいつでも配偶者の短期居住権の消滅の申入れをすることができ(同条3項),この申入れの日から6ヶ月を経過した日まで配偶者短期居住権が存続することになります。
4 その他の効果について(民法1038条以下)
⑴ 配偶者による使用(民法1038条)
配偶者短期居住権を取得した配偶者は,居住建物について用法遵守義務・善管注意義務を負担し,居住建物取得者の承諾なく第三者へ使用させることが禁止されます。これらに違反すれば,居住建物取得者は,当該配偶者に対し,配偶者短期居住権の消滅請求をすることができます。
⑵ 配偶者居住権の取得による消滅(民法1039条)
配偶者短期居住権を取得していた配偶者が,配偶者居住権を取得した場合,短期配偶者居住権による保護の必要性がなくなるため,配偶者短期居住権は消滅します。
⑶ 居住建物の返還等(民法1040条)
民法1039条に規定する場合を除き,配偶者短期居住権が消滅した場合,配偶者は,居住建物の返還,附属物の収去,原状回復義務を負うことになります。
⑷ 使用貸借等の規定の準用(民法1041条)
配偶者短期居住権は,使用貸借に類似する法定の債権とされています。そのため,配偶者の相続人に相続されず,当該配偶者の死亡した場合(民法597条3項)や,居住建物が全部滅失等した場合(民法616条の2)には消滅します。
その他,損害賠償請求や費用償還請求に関する時効完成の猶予(民法600条),譲渡の禁止(民法1032条2項),修繕や費用負担に関する定め(民法1034条2項,583条2項,196条)も準用されています。
4 まとめ
以上,配偶者短期居住権の要件と効果を概観してまいりました。
相続でもめている場合には,細かいお金の使い方1つ1つについて各相続人から苦情や文句がつけられます。特に親と子が対立している場合には,子が親に対して,家賃相当額の支払いを求めることも少なくありません。
実際に子から家賃を支払えと言われて困っている,被相続人名義の建物が遺贈されてしまい,どうすればよいかわからないという方は,ぜひとも一度弁護士にご相談ください。
令和2年9月14日
弁護士法人東海総合
弁護士 小山 洋史
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