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『相続法の改正によって図られた配偶者保護とは?③~配偶者居住権』

本稿では,2018年7月1日より施行の改正相続法において新設されました「配偶者居住権」について詳しく解説をしていきます。

 

1 相談事例

 

相談者は高齢の女性で,以下のような相談をしに法律事務所を訪れました。

 

「先日(2020年8月1日),長年連れ添った夫を亡くしました。遺言書は残さなかったようです。私には娘が1人だけいますが,今は遠く離れた地で家庭を築いており,地元に戻ってくる予定はないそうです。

 

私自身は年金暮らしなので,財産と呼べるようなものは何も持っていませんが,夫は遺産として,私たち夫婦で暮らしていた自宅(土地・建物)と預貯金を残してくれました。知り合いの税理士さんに聞いたところ,それぞれの評価額は,土地が2000万円,建物が1000万円になるそうで,預貯金は1000万円あります。

 

ずっと住み続けた自宅ですし,私としては,土地・建物を自分の名義に換えたうえで,今の家に住み続けたいと思っているのですが,娘はきちんとと2分の1ずつに分けてほしいと言って話になりません。今後どのようにして遺産分割をすればよいかわからず,本日,ご相談に参りました。私はどうすればよいのでしょうか?」

 

上記事例のポイントを整理すると,以下の4つに絞ることができます。

① 被相続人は夫で,相続人は妻と娘の2人(法定相続分2分の1ずつ)

② 夫の遺産は,土地(2000万円)・建物(1000万円)と預貯金1000万円

③ 妻としては,土地・建物は妻名義にして,そのまま住み続けたい

④ 娘としては,法定相続分に従って,2分の1ずつ(2000万円ずつ)分けてもらいたい

 

2 相続法改正前の取り扱い

 

上記事例において,妻と娘の要望をそのまま叶える形で遺産分割をしてみましょう。

 

まず,妻が土地(2000万円)と建物(1000万円)を取得した場合,妻は法定相続分よりも1000万円多く遺産を取得することになります。

 

これに対し,娘は残った預貯金1000万円しか取得していませんので,法定相続分(2000万円)との差額である1000万円を妻(母)に対して請求することになります。

 

しかし,妻には現金のようにすぐに用意できるようなお金がなく,娘に対して,1000万円を支払うことができません。

 

そのため,妻の要望は叶えられず,協議は揉めに揉め,結果的に土地・建物は妻と娘の共有名義にして,預貯金を500万円ずつ分けることになりました。

 

これで妻は一安心と思いきや,娘の怒りは収まらず,娘は妻(母)に対して,共有持分2分の1に相当する家賃相当額のお金を支払うよう請求する事態となり,以後,互いに連絡を取ることもなくなってしまいました。

 

3 配偶者居住権の活用

 

以上のような不都合な状況を想定し,新たに制定されたのが「配偶者居住権」(改正民法1028条以下)です。

 

配偶者居住権は,被相続人の配偶者に死亡までの間,無償で不動産に居住することができる権利であり,不動産の評価額が所有権の価値より低額となる点に特徴があります。

 

上記事例において,土地・建物の配偶者居住権の評価額が1500万円であったとします。

 

そうすると,妻は配偶者居住権(1500万円)と預貯金500万円を,娘は土地・建物の所有権(3000万円-1500万円=1500万円)と預貯金500万円をそれぞれ取得することできます。

 

妻としては配偶者居住権を取得したことにより,自分が死亡するまでは土地・建物に居住し続けることができますし,娘としても,法定相続分に従って遺産の2分の1を取得することができます。

 

土地・建物は妻の所有にはなりませんが,配偶者居住権は登記することもできますので,実質的に妻名義(の配偶者居住権登記)にすることも可能です。

 

4 おわりに

 

以上,配偶者居住権の活用例を見てまいりました。次稿では,配偶者居住権の要件や効果について詳しく検討したいと思います。

 

このコラムを読んで,自分にも配偶者居住権が認められるのではないか,もっと上手い活用方法はないかと思った方は,ぜひ一度弁護士にご相談ください。

 

 

令和2年9月25日

 

弁護士法人東海総合

弁護士 小山 洋史

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