コラム
忘れてはいけない相続税~その1
相続を語る上で外せないのが「相続税」です。
相続税については一定の控除額が認められていますので、実際には相続税の納付が必要ないかた大半です。
もっとも、仕組みを理解しておくことで、納税の要否を見通せるようになりますので、数字が苦手な方も少しだけ我慢して読み進めてみてください。
1 相続税とは
相続税とは、「相続税法」に基づき課せられる税金です。
人が亡くなって財産の移転が行われると、その財産を受け取った人に申告・納付の義務が生じます。
相続税は「富の再配分」を前提としており、税の徴収と再配分によって貧富の格差を緩和させるという
目的があります。
2 相続税の計算方法
相続税の算定では、主に①「基礎控除額の計算」、②「正味の遺産額」、③「課税遺産総額」、④「税
額計算」という4つのステップを踏みます。
簡単にいうと、分配された相続財産から基礎控除額を差し引き、残った部分に相続税がかかるというわ
けです。
ここでは、わかりやすいように具体的なケースを想定し、具体的な計算方法を見てみましょう。
【ケース】
・相続人 妻、子ら3名の合計4名
・遺 産 土地5000万円、預貯金1500万円、車200万円
借入金500万円、葬儀費用250万円
① 基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
*法定相続人4名(妻1人+子ら3人)だから、
3000万円+600万円×4人=5400万円(①)
② 正味の遺産額=不動産や預貯金などのプラスの財産(積極財産)から借入金などのマイナスの財産
(消極財産)を差し引いた額
*土地5000万円+預貯金1500万円+車200万円-借入金500万円-葬儀費用550万円
=5950万円(②)
③ 課税遺産総額=正味の遺産額(②)-基礎控除額(①)
*正味の遺産額5950万円(②)-基礎控除額5400万円(①)=550万円(③)
④ 税額計算=課税遺産総額×法定相続分(民法900条)×相続税率(国税庁:速算表より)
*妻の法定相続分=2分の1、子ら3人の法定相続分=各6分の1
妻の税額=課税遺産総額550万円(③)×2分の1×税率10%=27.5万円
子1人当たりの税額=課税遺産総額550万円(③)×6分の1×税率10%=9.16万円
3 相続税の各種控除
実際には、上述した計算結果から、さらにさまざまな控除を利用することで、税額をより小さくするこ
とが可能です。代表的な控除は次のとおりです。
⑴ 贈与税額控除
過去3年以内に、相続財産と同じ財産について贈与税を支払った相続人がいる場合は、その額を控除
する。
また以下のように相続税控除を活用することで、実質的な相続税額を減らす方法もあります。
・暦年贈与による控除(年間110万円まで控除)
・相続時精算課税制度(2500万円までの贈与が特別控除により非課税)
・贈与税の配偶者控除(最大2000万円)
・結婚または子育て資金贈与(最大1000万円)
・住宅取得資金贈与(最大3000万円)
⑵ 配偶者控除
民法の規定による配偶者(ただし、内縁の妻は除く。)に対し、「1.6億円」または「配偶者の法
定相続分の財産額」の「いずれか大きい金額分」について無税となる。
⑶ 未成年者の税額控除
相続開始時点で20歳未満の未成年がいる場合、「10万円×未成年者が満20歳に達するまでの年
数」が控除される。
⑷ 障がい者控除
相続開始日時点で85歳未満の障がい者がいる場合には、控除が発生する。
・一般障がい者の場合=「10万円×当該障がい者が満85歳になるまでの年数」
・特別障がい者の場合=「20万円×当該障がい者が満85歳になるまでの年数」
以上の他にも「相似除相続控除」や「外国税額控除」などもありますので、どの控除を活用できるのか
については、専門家に相談してみてください。
4 まとめ
以上、簡単ではありますが、相続税の計算方法とさまざまな控除について解説して参りました。
私も相続税を始めとする基本的な税務知識は身につけていますし、訴訟になれば各分野の税法を参照
し、一から仕組みを理解するよう心掛けていますが、やはり税務は税理士に相談した方が確実です。
弊所のように税理士が在中する法律事務所は少しずつ増えてきています。いろいろな事務所を回るの
は面倒、法務・税務の双方からアドバイスが欲しいという方は、是非とも弊所にご相談ください。
その他のコラム
特別受益② ~ 遺留分との複雑な関係について
前稿では、「特別受益」について具体的な例を挙げながら基礎的な部分を解説いたしました。 そこで今回は、発展的な部分として、「特別受益」と遺留分との関係について解説したいと思います。 1 特別受益の持戻し 前回のおさらいになりますが、「特別受益」とは、「“相続人の一部”が、被相続人から受け取った“特別な受益”」をいいます。 ここにいう“特別な受益”...
『相続法の改正によって図られた配偶者保護とは?③~配偶者居住権』
本稿では,2018年7月1日より施行の改正相続法において新設されました「配偶者居住権」について詳しく解説をしていきます。 1 相談事例 相談者は高齢の女性で,以下のような相談をしに法律事務所を訪れました。 「先日(2020年8月1日),長年連れ添った夫を亡くしました。遺言書は残さなかったようです。私には娘が1人だけいますが,今は遠く離れた地で家庭を築...
第2章 相続開始当初から気をつけておくこと
1. 仮払い制度~ 当面の資金が必要な場合 ⅰ)仮払い制度の概略 令和元年7月1日以降、民法改正により、葬儀費の支払わなければならない、生活費が足りない、相続した債務を払わなければならない、でもまだ遺産分割をしていないというときに、遺産のうち、預貯金の一部を払い戻すことが可能となりました(民法909条の2)。 遺言等があれば、相続人のうち一人の方だけで払戻しを受けることが可能となる場合もありますが、そうでな...
第5章 将来生じる相続についての検討ーその1
1 贈与についての注意点 相続が開始する前の生前に、財産を贈与して、相続人間の紛争を予め回避したり、相続税を軽減したりする方法が考えられます。 贈与に関する注意点は以下のとおりです。ご参考下さい。 ⅰ) 贈与は、贈与する人と贈与を受ける人との契約ですので、遺言と異なり、一方的に行うことはできません。 ⅱ) また、書面で契約しない贈与は、贈与の目的物を引き渡すなど贈与契約の履行が終了するまでは、いつでも撤回できますので(...
相続法改正による配偶者保護⑷~配偶者居住権(その2)
前回コラムに引き続き、配偶者居住権の要件と効果、そして配偶者居住権を活用した相続税対策についてお話します。 1 配偶者居住権の要件 配偶者居住権が認められるためには,以下の要件を満たすことが必要です。 ⑴ 被相続人の配偶者であること(1028条1項本文) ⑵ 相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたこと(本文) ⑶ 被相続人が居住建物...