コラム
第4章 遺言がある場合の相続手続についてーその1
1 遺言について
遺言(いごん)は「人が死後のために残す言葉」という意味に用いられておりますが、法律的には、「財産の処分方法や認知などの身分関係に法的に効力を生じさせる目的で、一定の方式に従って行う意思表示」という意味があり、次のような7種の方式があります。
検認手続きについて、封印のある遺言は、偽造等を防ぐために、家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立会がなければ、開封できません。勝手に開封してしまうと過料に処せられます。
また、公正証書遺言を除き、他の遺言は、遅滞なく、家庭裁判所で検閲・認証手続である検認手続を行う必要があります。
通常は、家庭裁判所で、開封→朗読→閲覧→検認調書の作成が一度になされます。
但し、この検認手続は、証拠を保全する手続ですので、検認したからといって、遺言が有効であると認められるわけではありません。
さらに、遺言が数通ある場合についてですが、後の遺言と前の遺言が抵触するときは、その抵触する部分は後の遺言で取り消されたものとみなされますので、後の遺言が優先されることになります。
なお、遺言がある場合でも、相続財産の一部が漏れていたり、遺産の内一定割合を取得したりするという内容の遺言である場合など、遺産分割協議が必要な場合がありますので、詳しくは当事務所にご相談ください。
遺言の種類
① 自筆証書遺言
Ⅰ 作成について
自筆証書遺言は、
遺言する人(遺言者)が、
a) 遺言の全文、
b) 日付、
c) 氏名
を全て自分の手で書き、押印するだけで作成することができます。さらに、自筆証書遺言に添付する財産(遺産)目録の作成が手書きではなくワープロ書き等でもいいことになりました。
ただ注意して頂きたいのは、
a) 偽造防止のため、財産目録には各頁ごとに、署名・捺印が必要となります。
b) 遺言書の本文については、これまでどおり手書きで作成しなければなりません。
したがって、自筆証書遺言は、費用もかからず、証人の必要もなく、遺言も秘密にすることができる上、いつどこでも作成できる最も簡易な遺言の方式です。
しかし、後に、騙されたり脅されたりして作成させられたのではないかと紛争になったり、紛失や偽造されたりする危険もあります。
また、方式が不備で無効になったり、内容が不完全で紛争が起こったりする可能性もあります。その意味で紛争の生じやすい遺言ともいえるでしょう。
Ⅱ 法務局における自筆証書遺言の保管制度 ~ 検認手続不要
法務局で自筆証書による遺言書を保管する制度があります(令和2年7月10日以降)。
上記のとおり、紛失や偽造を防ぐため利用したい制度です。
概要は以下のとおりです。
・ 遺言書は、原本は、遺言者死亡後50年間、画像データは、150年間管理されます。
・ 遺言書保管所に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認が不要となります。
・ 民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するか、遺言書保管官の外形的なチェックが受けられます。
・ 対象となるのは、自筆証書遺言のみです。
・ 遺言書は、封のされていない法務省令で定める様式に従って作成されたものでなければなりません。
・ 遺言者自らが法務局に出頭する必要があります。
・ 遺言者の死亡後に、相続人や受遺者らは、全国にある遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうかを調べることができ、遺言書保管事実証明書の交付を請求できます。
・ 遺言者の死亡後に、遺言書の写し(遺言書情報証明書)の交付を請求することができます。
・ 遺言者の死亡後に、遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することができます。
・ 遺言者の死亡後に、相続人の内の一人が、遺言書保管所において遺言書の閲覧をしたり、遺言書情報証明書の交付を受けたりした場合、その他の相続人全員に、遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
・ 遺言者が予め希望した場合、通知対象とされた一名のみに対して、法務局の戸籍担当部局との連携により遺言者の死亡の事実が確認できた時に、相続人等の閲覧等を待たずに、遺言書が保管されている旨の通知が届きます。
・ 遺言書の保管の申請手数料は、申請1件(遺言書1通)につき、3900円
② 公正証書遺言
公正証書遺言は、誤解をおそれずに簡単にいうと、遺言する人(遺言者)が、証人2人以上の立会いのもと、遺言内容を公証人に伝えて、公証人に作成してもらった遺言書を確認して、署名捺印する遺言のことです。
公証人が関与して作成し原本は公証役場で保管していますので、意味不明のために無効となる可能性が低く、紛失や偽造される危険がなく、相続が開始したときに家庭裁判所で検認手続を行ってもらう必要もありません。
また、字を書けない人でも作成することが可能です。
しかし、公証人に作成費用を支払う必要がありますし、公証人に提示あるいは提出する書類を用意する必要があり、手続も戸惑うことが多いと思います。
詳細については、当事務所にお気軽にご連絡下さい。
③ 秘密証書遺言
秘密証書遺言は、遺言する人(遺言者)が、遺言の内容を遺言者の生存中秘密したい場合に用いられるものです。
ⅰ) 遺言者がその証書に署名、押印し、
ⅱ) 遺言者がその証書に封をして証書に用いた印章で、これに封印し
ⅲ) 遺言者が公証人1人及び証人2人の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述し、
ⅳ) 公証人がその証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名押印する
ことによって作成されます。
④ 一般危急時遺言
遺言する人(遺言者)が、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫っているときに認められる方式です。
⑤ 難船危急時遺言
船舶遭難の場合で、船舶中にあって死亡の危急の迫っているときに認められる方式です。
⑥ 一般隔絶地遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にいる者に認められる方式です。
⑦ 船舶隔絶地遺言
船舶中にあって一般の人と連絡が取れない場合に認められる方式です。
〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦二丁目4番23号 シトゥラスTビル
弁護士法人東海総合 TEL 052-232-1385 / FAX 052-232-1386
その他のコラム
自分でもできる相続調査
一般的に誰かが亡くなると、葬儀の手配や遺品の整理のほかに「誰が相続財産を受け継ぐのか」「相続財産はどれくらいあるのか」といった調査が必要になり、これを「相続人調査」、「相続財産調査」と呼びます。 近年は相続についてのマニュアル本も複数出版されており、「戸籍の取寄せは自分でしてきたので、これからどうすればよいのか教えて欲しい」と相談にいらっしゃる方もいます。 そこで、本稿では、相続人調査・相続財産...
第2章 相続開始当初から気をつけておくこと
1. 仮払い制度~ 当面の資金が必要な場合 ⅰ)仮払い制度の概略 令和元年7月1日以降、民法改正により、葬儀費の支払わなければならない、生活費が足りない、相続した債務を払わなければならない、でもまだ遺産分割をしていないというときに、遺産のうち、預貯金の一部を払い戻すことが可能となりました(民法909条の2)。 遺言等があれば、相続人のうち一人の方だけで払戻しを受けることが可能となる場合もありますが、そうでな...
特別受益② ~ 遺留分との複雑な関係について
前稿では、「特別受益」について具体的な例を挙げながら基礎的な部分を解説いたしました。 そこで今回は、発展的な部分として、「特別受益」と遺留分との関係について解説したいと思います。 1 特別受益の持戻し 前回のおさらいになりますが、「特別受益」とは、「“相続人の一部”が、被相続人から受け取った“特別な受益”」をいいます。 ここにいう“特別な受益”...
相続放棄はどこまでやるべき?
先日、「相続放棄について、全員でしなければならいないと聞いたのですが、どのようにすればよいのでしょうか?」というご相談をいただきました。 そこで、本稿では、相続放棄の範囲について解説したいと思います。 1 相続放棄とは 相続放棄とは、被相続人の残した財産(遺産)の一切を相続しない手続きのことをいいます。 相続放棄をすると「初...
第4章 遺言がある場合の相続手続についてーその1
1 遺言について 遺言(いごん)は「人が死後のために残す言葉」という意味に用いられておりますが、法律的には、「財産の処分方法や認知などの身分関係に法的に効力を生じさせる目的で、一定の方式に従って行う意思表示」という意味があり、次のような7種の方式があります。 検認手続きについて、封印のある遺言は、偽造等を防ぐために、家庭裁判所において、相続人またはその代理人の立会がなければ、開封できません。勝手に開封してしまうと過料に処...