コラム
相続放棄はどこまでやるべき?
先日、「相続放棄について、全員でしなければならいないと聞いたのですが、どのようにすればよいのでしょうか?」というご相談をいただきました。
そこで、本稿では、相続放棄の範囲について解説したいと思います。
1 相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人の残した財産(遺産)の一切を相続しない手続きのことをいいます。
相続放棄をすると「初めから相続人でなかったものとみなされ」ますので、借金などのマイナスとなる財産の相続を免れることができますが、預貯金や不動産などのプラスとなる財産についても相続できなくなりますので、注意が必要です。
つまり、相続放棄は、マイナスの財産が非常に多く、プラスの財産を相続したとしても損が出るような場合に選択されるものといえます。
ただ実際には、今の生活で満足しているから特に遺産は要らないとか、生前仲が良くなかったので相続だけはしたくない、といった理由で相続放棄をされる方もいらっしゃいます。
2 法定相続人の順位
では、そもそもどの範囲で相続がされるのでしょうか?
まず、民法上「配偶者」は必ず相続人となるものとされています。
次に、第1順位が「子」、第2順位が「直系尊属」(父母や祖父母)、第3順位が「兄弟姉妹」となっています。
さらに代襲相続といって、被相続人の死亡以前に、子や兄弟姉妹が死亡または欠格(遺言書の偽造や被相続人への虐待などによって相続人たる地位を失うこと)している場合には、それらの子が「代襲相続人」として相続をすることができます。いわゆる「孫」や「甥」「姪」が相続する場合です。
また「孫」も被相続人の死亡以前に死亡していた場合には、「ひ孫」が「再代襲相続人」として相続をすることができます。これに対し、「甥」や「姪」の子については再代襲が認められていませんので、注意が必要です。
簡単にまとめると、まずは①配偶者、次に②子(死亡または欠格の場合には③孫、④ひ孫)、⑤直系尊属、⑥兄弟姉妹(死亡または欠格の場合には⑦甥姪)という順番となります。
3 相続放棄の範囲
では、相続放棄は①〜⑦のどこまでやる必要があるのでしょうか? 以下、順番に見ていきましょう。

⑴ まず、①配偶者が相続放棄した場合は、その他の相続人に相続権が移ることはありません。
⑵ 次に、②子が相続放棄した場合も、③孫や④ひ孫に相続権が移ることはありません。
⑶ ②子が全員相続放棄すれば、その相続権は被相続人の父母(⑤)に移ります。つまり、相続放棄による相続権の移譲は、下(子)には行かないけれども、上(直系尊属)には行くことになっています。
⑷ 被相続人の父母(⑤)が相続放棄した場合、祖父母(⑤)が存命であれば、祖父母に相続権が移ります。
⑸ 祖父母がいないか相続放棄した場合には、⑥兄弟姉妹(被相続人の死亡以前に亡くなっていた場合には、⑦甥姪)に相続権が移ります。
⑹ ⑥兄弟姉妹が相続放棄した場合、相続放棄による相続権の移譲は下(子)にはいきませんので、⑦甥姪に相続権が移ることはありません。
同じく、⑦甥姪が代襲相続をした場合で、その甥姪が相続放棄をしたとしても、甥姪の子には相続権が移りません。
実際に冒頭のような相談がきた場合には、相続関係図を書きながら、以上の⑴〜⑹の順に相続放棄が必要となる範囲をひとつひとつ確認することになります。
4 おわりに
以上、相続放棄の範囲についてみてきましたが、抽象的過ぎてよくわからないと思った方もいらっしゃると思います。
それぞれの家族関係によって相続放棄をすべき範囲は異なってきますし、そもそも相続人がどれだけいるのかも把握できていない場合も多々ございます。
相続人の数が多すぎて相続関係図を書けないので相続調査をしてもらいたい、自分で関係図を書いても放棄の範囲がよくわからないという方は、是非一度ご相談にお越しください。
令和2年11月24日
弁護士法人東海総合
弁護士 小山 洋史
その他のコラム
『知らない間に借金?相続の仕組みを解説』
「相続」という言葉聞いて、皆さんはどのようなイメージをされるでしょうか。実家を継ぐ、兄弟姉妹で預貯金を分配するといったプラスの財産を引き継ぐ場面を想像しやすいのではないでしょうか。 しかし、相続の対象はプラスの財産だけではありません。借金等のマイナスの財産を引き継ぐこともあるのです。そのため、安易な相続には注意が必要です。 また、プラスの財産がない場合、「何も貰えそうにないから、何もしなくていいや」と考えがちかもし...
自分でもできる相続調査
一般的に誰かが亡くなると、葬儀の手配や遺品の整理のほかに「誰が相続財産を受け継ぐのか」「相続財産はどれくらいあるのか」といった調査が必要になり、これを「相続人調査」、「相続財産調査」と呼びます。 近年は相続についてのマニュアル本も複数出版されており、「戸籍の取寄せは自分でしてきたので、これからどうすればよいのか教えて欲しい」と相談にいらっしゃる方もいます。 そこで、本稿では、相続人調査・相続財産...
第3章 遺言がない場合の相続手続についてーその1
1 相続の単純承認、限定承認、放棄について 遺言がない場合は、上述のとおり、単純承認、限定承認、放棄のいずれにするか決定する必要があります。以下それぞれについて説明します。 ① 単純承認とは 相続が開始したら、相続を承認することができます。 相続を承認する(単純承認)とは、被相続人の権利義務をそのまま承継することで、必ずしも積極的な意思表示や手続を必要としません。 したがって、自己のために相続の開始を知っ...
特別受益① ~ 兄弟は他人の始まり
遺産分割でよくある相談の一つに「特別受益」があります。 例えば、「妹は大学に行かせてもらったのに、自分は高卒で家業を継がなければならなかった。妹の学費分は遺産から引けませんか?」といったような相談が数多く寄せられ、しかも「きょうだいの縁を切って、今日は相談に来ました。」という方も少なくありません。 そこで、本稿では、特別受益の概要と、どのような場合に特別受益が考慮されるのか、...
『特別寄与料とは?新設された特別の寄与を解説』
昨年施行された改正相続法により、「特別の寄与」の制度が新設されました(民法第1050条)。この改正によって、相続人以外の親族であっても、無償で被相続人の介護等の労務の提供をしていた場合には、特別寄与料として金銭の支払いを請求できることになりました。 では、具体的にこれまでの相続法とは何が変わったのでしょうか、どのような場合に特別寄与料の請求ができるのでしょうか。 1.これまで...
