コラム
第2章 相続開始当初から気をつけておくこと
1. 仮払い制度~ 当面の資金が必要な場合
ⅰ)仮払い制度の概略
令和元年7月1日以降、民法改正により、葬儀費の支払わなければならない、生活費が足りない、相続した債務を払わなければならない、でもまだ遺産分割をしていないというときに、遺産のうち、預貯金の一部を払い戻すことが可能となりました(民法909条の2)。
遺言等があれば、相続人のうち一人の方だけで払戻しを受けることが可能となる場合もありますが、そうでなければ、遺産分割協議が成立し、預貯金を取得する人が決まるか、相続人全員の承諾がなければ払戻しを受けられないのが原則です。
しかし、相続開始時の預貯金債権の口座の金額の1/3の金額のうち、払戻しを請求する方の法定相続分については、単独で払戻しができるようになりました。
例えば、遺産のある預金の金額が、240万円で、妻とAとBの子二人がいるとすると、子Aさんが払い戻しを受けられるのは、
240万円×1/3×1/4(Aさんの法定相続分)
= 20万円
となります。
ただし、法務省令で、1つの金融機関ごとに150万円が限度とされています。
ⅱ)仮払いの対象とならない預貯金
対象となるのは、民法909条の2で「遺産に属する預貯金債権」と規定されています。
つまり、遺言によって特定の人が取得する(遺贈や遺産分割方法の指定等により取得する)ことになった等の預貯金は、遺産分割の対象とはなりませんので、原則として仮払いの対象とはなりません。
ⅲ)仮払いの手続の注意点
仮払いは、預貯金の口座の金額の1/3の内、法定相続分の金額を払い戻すことになるので、相続開始の事実を示す被相続人の死亡、法定相続分が確定できる相続人の範囲を示す戸籍謄本が必要となります。
ⅳ)仮払いの効果
仮払いをした預貯金債権については、民法909条の2で仮払いをした相続人が「遺産の一部の分割により、これを取得したものとみなす。」と規定されており、仮払いしたことにより、遺産分割により仮払いした預貯金を取得したことになります。
なお、家庭裁判所に遺産分割の調停や審判を申し立て、仮に預貯金債権を取得できるという上記仮分割の仮処分制度もあります。
債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により必要性が認められ、他の共同相続人の利益を害することがない場合に家庭裁判所によって認められる可能性があります(家事事件手続法200条3項参照)。仮払い制度により払戻しを受けても、なお不足する場合に利用できます。
2. 配偶者居住権について
配偶者居住権とは、相続開始時に、被相続人の配偶者が、被相続人が所有していた建物に居住していた場合に、無償で継続して住み続けられる権利です。
配偶者居住権には、
・「配偶者短期居住権」と
・「配偶者居住権(長期居住権)」
があります。
Ⅰ【配偶者短期居住権】
ⅰ)要件 ~ 以下の要件をすべて満たす場合に認められます。
・ 被相続人の配偶者が
・ 相続開始時に
・ 被相続人が所有する建物に
・ 無償で
・ 居住していた居住していた場合
に居住権認められます。
ただし、民法891条の相続人としても欠格事由に該当し、もしくは、廃除によって、相続権を失った時には認められません。
ⅱ)効果 ~ 認められる居住権は、以下のとおりです。
・ 被相続人の意思などに関係なく、相続開始時から発生します。
・ 無償で、使用する権利が生じます。
ただし、一部のみを無償で使用していた場合は、その部分に限られます。
・ 使用期間は、以下のイ)もしくは、ロ)の日まで居住できます。
イ)居住建物が配偶者を含み共同相続人間で遺産分割すべき場合
以下のaまたはbのいずれか遅い日まで住むことができます。
a 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日
b 相続開始の時から六ケ月を経過する日
ロ)居住建物取得者が、配偶者短期居住権の消滅の申入れをした場合(遺言により第三者に遺贈された場合や、配偶者が相続放棄をした場合により消滅を申し入れた場合等がこれにあたります。)
その申入れの日から六ケ月を経過する日
ⅲ)課税関係
配偶者短期居住権は、財産性がなく、相続税の課税の対象とはなりません。
Ⅱ【配偶者長期居住権】 ~ 単に「配偶者居住権」ということがあります。
被相続人御配偶者居住していた建物についての権利を
・ 配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得し
・ 配偶者が「配偶者居住権」を取得する
ことができるようにしたもので、長期間(終身または一定期間)無償で居住建物を使用できる権利です。
ⅰ)要件 ~ 以下の要件をすべて満たす場合に認められます。
・ 被相続人の配偶者が
・ 相続開始時に
・ 被相続人が所有する建物に
ただし、相続開始時に被相続人が配偶者以外のものと共有している場合は認められません。
・ 居住していた場合において
・ 遺産分割、遺贈、死因贈与、もしくは家庭裁判所の審判によって被相続人の配偶者が配偶者居住権を取得した場合に認められます。
ⅱ)内容及び設定
・ 使用期間は、遺産分割、遺贈、死因贈与、もしくは家庭裁判所の審判によって設定されます。
・ 期間は「終身」だけではなく、例えば「10年」と期間を区切ることもできます。
・ 買受人などの第三者に「住む権利」を主張するためには、登記をする必要があります。
ⅲ)効果 ~ 認められる居住権は、以下の通りです。
・ 配偶者居住権は、他に(相続人や家族含みます。)譲渡したり、貸したりすることはできません。
・ 所有権ではなく、居住する権利にとどまるので、その分評価額は低くなります。
・ また、配偶者居住権は建物だけに設定されるにすぎないので、建物の底地の所有権には及びません。したがって、底地の所有者は底地を他に売却することも可能です。
ⅳ)居住する権利以外のメリット
・ 居住権は、所有する権利を含まないので、その分評価額が低くなるのは上述の通りですが、そのため。預貯金などの他の財産もより多く取得できる可能性があります。
・ 居住する必要がなくなったときは、配偶者居住権を消滅させることができます。
・ 相続税の評価上、配偶者居住権は、対象財産として評価されますが、建物の所有権ではなく、居住権部分だけになりますので、配偶者の取得額は相続税の評価上低く抑えられます。
・ 二次相続(配偶者居住権を有する配偶者が他界した場合の相続)では、この配偶者居住権については対象外となり課税されません。
ⅴ)注意点及びデメリット
・ 建物の使用方法に問題があるなどの場合、建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の消滅を請求することができます。
・ 配偶者居住権は、他に譲渡できず、所有権には及ばないので、将来生活費等の資金を得るために建物やその底地を配偶者が売却する場合は、配偶者居住権の設定を回避し、土地や建物の完全な所有権を配偶者が取得したほうがいい場合が多いでしょう。
3. 相続の承認、限定承認、放棄の選択
~ 3か月以内
相続が生じたら、
・ 相続を承認するのか、限定承認するのか、相続を放棄するのかを
・「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に」
決めなければなりません。
相続を承認する場合には特別な手続は不要ですが、限定承認と相続放棄の場合は、別途家庭裁判所に対して手続をして受理されることが必要ですので、上記3か月が経過しないように注意が必要です。
また、相続人が相続財産の全部または一部を処分してしまったときなどは、相続を承認したとみなされることがありますので、限定承認や放棄をする場合は、手続を行っても、相続財産の処分を行わない方が無難です。
遺言により財産の全部とか、遺産の内一定割合を取得するという内容の遺言がある場合(このような遺言を包括遺贈といいます。)で、その遺言より遺産を取得することになる方は、相続人ではなくとも、遺言のとおり遺産を取得するのか、放棄するか等について同様に、上記3か月の期間制限がありますので注意して下さい。
4. 特別寄与
特別寄与とは、
① 相続人ではない親族が
② 無償で
③ 被相続人の介護や看病に貢献し、
④ 被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした場合
に、相続人に対し、金銭の請求をすることができる権利です。
⑤ 相続税の申告と納税 ~ 10か月以内
・ 相続税を納める必要がある方は、
・ 自己のために相続の開始があったことを知ったときから10ヶ月以内に」
・ 相続税の申告をするとともに、相続税を納付する(支払う)こと
が必要です。
相続問題が生じ、ご不明の点やご相談等がございましたら、ご遠慮なく、当事務所宛、ご連絡頂きますようお願い申し上げます。
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