コラム
遺言・相続だけじゃない高齢者の身のまわり対策
昨今のコロナ禍を受けてか、最近は遺言書作成についてのご相談が増えつつあります。
なかにはひとり暮らしの方もいらっしゃいましたが、そもそも遺言書を作る以外に対策はないのでしょうか?
そこで、本稿では、高齢者の生活や財産を守るための対策について概観したいと思います。
1 おひとり様対策
高齢者のひとり暮らし、いわゆる「おひとり様」と呼ばれる状態では、高齢者の心身の安全や生活の質を保つための対策が必要です。
現在、民間企業において様々な高齢者向けサービスが提供され始めており、たとえば「見守りサービス」や「高齢者向け生活介助付き集合住宅サービス」といったものが数多く用意されてきています。
弊所においても、民間の「見守りサービス」を提供する企業と提携しており、法的問題に限られない総合的な問題解決の提案をさせていただいております。
しかし、こういったサービスだけではカバーしきれない問題も数多く存在します。代表的なものとしては、介護トラブルや自身の意思能力に関する問題が挙げられます。
これらは高齢者の生活の根幹にかかわるものでありながら、本人だけではなく、ご家族を巻き込んだ問題に発展しやすいため、お困りの家族が弊所へご相談にいらっしゃるケースが散見されます。
2 介護トラブルに対する対策
介護トラブルに関するご相談の例としては、次のようなものがございます。
【相談例1】手厚い介護を売りにしていた施設に親をあずけたところ、食事の提供や移動時の介護などが不十分で身体、健康状態が悪化した。
【相談例2】特別養護老人ホームで健康状態の悪化がみられているにもかかわらず、精密検査をせず、重大な病気への罹患が見逃されていた。
こういったトラブルは、高齢者自身が経緯を十分に把握できない上に、ご家族の目も届きにくく、泣き寝入りになってしまう可能性もございます。また、トラブルの解決には相手方となる企業や団体との交渉が必須であり、それ相応の時間と労力もかかります。
施設を監督、指導する自治体の介護保険課や、国民健康保険団体連合会への相談という手もありますが、結果的には「本人同士で解決されてください」と告げられることも少なくありません。
本人同士の解決を望んでいても話がまとまらず、最終手段として介護訴訟へと発展する可能性もあります。
早期解決を図るためにも、早期から介護や医療に詳しい弁護士を間に入れたり、定期的に相談に行ったりすることで、トラブルの発展、解決の困難化を未然に防ぎましょう。
3 後見制度の利用
高齢者にまつわる問題として避けて通れないのが「認知症」です。認知症は、本人の判断能力を低下、喪失させてしまうため、財産の管理や契約に支障が出てしまいます。
法律的な観点からこの問題みると、認知症によって「自己の行為が法的にどういった結果や意味を発生させるかを認識、判断する能力」すなわち「意思能力」が無くなってしまうことを意味します。
意思能力のない状態での法律行為は「無効」と判断されることもあるため、公正証書遺言の作成など、本人確認が必須になるような行為には著しい制限がかかってしまいます。
身近な例としては「銀行窓口での預貯金の引出し」や「預貯金口座の解約」が挙げられます。このほかにも「不動産の売買」や「携帯電話の利用契約の締結と解約」など、例を挙げれば、枚挙にいとまがありません。
そこで、認知症への対策として活用されるのが「後見制度」の利用です。後見制度は、認知症や精神障碍等によって意思能力が低下している方を保護する制度です。
特に「成年後見制度」において、成年後見人は、本人(高齢者)が行った契約等の「財産に関する法律行為」について包括的に代理する権限を有しており、契約の取消しも可能です。
成年後見には、①法定後見と②任意後見の2つがあります。
ここでは、①法定後見は、本人が認知症になった後に申し立てるもの、②任意後見は、本人が元気なうち(意思能力があるうち)に、将来に備えて後見人を予約しておくもの、という理解で結構です。
たとえ身内であっても財産の横領や使い込みといったトラブルが散見されるため、後見人には、弁護士等の公正中立で信頼のおける第三者へ依頼されることをお勧めいたします。
4 家族信託の利用
高齢者の財産を守るための方法として「家族信託」の利用もお勧めです。
家族信託は、資産を持つ方が特定の目的のために、信頼できる家族に資産を託し、管理・処分などを任せる仕組みです。平成18年の信託法改正によって、より身近で使いやすくなり、新しい財産管理の手法としては流行しています。
家族信託では、「受託者(信頼できる家族)」が「委託者(財産を持っている高齢者)」に対して財産の管理・運用・処分を任せることができ、さらに財産の管理・運用・処分によって発生した利益を「受益者」に給付することもできます。
家族信託は、高齢者自身が元気なうちにはじめることができ、受託者(家族など)の合意だけで契約が完了するシンプルな制度となっています。成年後見制度のように家庭裁判所への申立ては必要ありません。
家族信託の利用では、委託者と受託者との間で信託契約を締結します。他にも、遺言によってもすることができます。
契約書や遺言書の作成方法について不安がある場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。
5 まとめ
以上のように、高齢者の生活や財産を守るには、複数の法的な手続き、制度の活用が考えられます。
特に成年後見制度や家族信託については、あまり一般的とはいえませんので、専門家の知識とノウハウを活用することをお勧めいたします。
民間の見守り系サービスと併せた高齢者対策として、弁護士への相談を検討されてみてはいかがでしょうか。
令和3年2月12日
弁護士法人東海総合
弁護士 小山 洋史
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